「スザク!」
聞こえた声に、反射的に振り返った。
「ル、ルーシュ」
声が震えてしまう、どうしても。
どういう顔をすればいいのだろうか。
何を話せばいいのだろうか。
何を。
「スザクが、学校に来てるって、会長に聞いて」
どうして連絡してくれなかったんだよ。
走ってきたのだろう。
切れた息を整え大きく息を吸ってから少し肩をすくめて言った。
「あ...う、ん。ごめん」
自分たちは、今までどうやって話していたのだろう。
頭の中は真っ白で、言葉なんてろくに紡げない。
話すという行為は、ここまで労力を要するものだっただろうか。
大丈夫、『この』ルルーシュは自分の汚い部分なんて何も知らない。
すべてが壊れる前の、美しい関係をまだ保つことができる。
だが自分に言い聞かせて落ち着かせても、もう一人の自分が囁く。
『本当に、ルルーシュは何も知らないのか?』
「それで、どうしていきなり?こんな平日に」
ナイトオブラウンズになって、学園を辞めて。
それを君は「ルルーシュの記憶」として持っているのだろうか。
それとも「植えつけられた記憶」として持っているのだろうか。
...皇帝陛下からの勅命。
ルルーシュに接近して、記憶の変化を探ること。
そのために自分は、もう一度この学園に戻ってきた。
みんなは、自分のことを、どう、思っているのだろうか。
「いや、あの、ちょっと近くに来る用事があって」
「近くに来る用事で制服着てくるか、普通」
屈託のない笑顔で笑う、ルルーシュ。
その時俺は脳裏で、あの美しく冷血な笑みを思い浮かべていた。
この笑顔と、あんな冷血な笑みは同居しない。
そう納得できる結論を見出そうとしても、また囁く。
『ルルーシュは、お前と再会したときにはすでにゼロだったんだぞ?』
自分が見てきたルルーシュは、ゼロとしての自身を持つルルーシュだけだ。
そのときだって彼は、少なくとも俺やナナリーの前では、こういう笑顔を浮かべていた。
「時間はまだあるのか?」
「えっ...ど、うして?」
身構えるような質問ではないのに、動揺して返答が遅れてしまう。
...感情など、揺らがなくなって久しいというのに。
ルルーシュをゼロとして皇帝陛下に差し出して。
それで、全て終わりなんだと思っていた。
これでもうルルーシュのことで、ルルーシュを想って悩まなくていいのだと思った。
ルルーシュのことを、忘れられると思っていた。
記憶を無くす代わりに、安全な場所にいてくれるならそれでいいと思った。
なのに、なのに。
どうして僕らは、またこうして顔をつき合わせているのだろうか。
「いや、お茶でもどうかなって思ってね。ロロもスザクに会いたがってたし」
ロロ。
聞きなれない単語が、引っかかる。
ろろ。
誰だろう、それは。
こないだまでそこには、花が咲くような笑みを浮かべる優しい少女の名が冠してあったはずなのに。
...あぁ、そうか。
これは罪なんだ。
父を殺し、日本を捨て、ユフィーを亡くし、ルルーシュを売った自分への。
今の『この』ルルーシュは、俺への罰の塊だ。
ルルーシュの全てが、俺を断罪する。
「ごめん、今日は帰るよ。また今度、お邪魔させてもらう、から」
ロロとは、ルルーシュの『弟』の名前だったはずだ。
ナナリーの存在の空白を埋める存在。
みんなの中には、ナナリーの存在はなくなっていると聞いている。
...自分はルルーシュから、命を奪ったも同然なのか。
そして、ナナリーの命をも奪ったも同然なんだ。
皇帝陛下には、変化なしとお伝えしよう。
ナナリーを思い出していたら、偽りの弟の名をこんなにも柔らかく呼ぶことなんてできない。
少なくとも、おれにはロロの名を呼ぶことはできない。
「そうか、それは残念だな。久しぶりに会えたっていうのに」
「ごめん」
こんなやり取りを、前にもした気がした。
僕の記憶も、目の前の姿も、声も、何も変わらないのに。
「いいって。それじゃな、スザク」
「うん、本当に、ごめん」
何に対しての謝罪なのか、自分ではわからなかった。
<END>
・後反・
スザクは一時的に来たのじゃなくて、転校?してくるのでしょうか。復学?
とりあえず、スザクはルルの変身?ぶりに驚いてしまって。
で、その原因は自分にあって。
突きつけられた現実に、許容できないでいる感じです。
疑うことさえ、信じることさえできない。
...R2のスザクはこんなヤワじゃないとは思うんですけどね(苦笑
でも、ルルに関してはともかく、ナナリーの事に関しては
何か思うところがあるのかな、とは思っています。
というか、思いたいのかもしれないですけど(苦笑
そしてやはり、ルルスザというよりルル←スザクの独り語りという。
08.05.04
080429 作成
080430 修正