「ルルー...シュ?」
発せられた声は、生気などまったくなかった。
「どうして...」
なぜ?
何故に?
疑問ばかりが頭に満ちる。
「ん...っ」
「ルルっ!」
小さく声を漏らし、薄く目を開けた。
支えようとまわした手に、生温かい感触を得た。
直感で、それを血だと察し。
それを与えたのが自分であるという逃れられない現実に、思わず我を忘れて叫びそうになる。
だがそれを防いだのは、皮肉にもルルーシュの声であった。
「スザク...か?」
「ルルーシュ!」
声で、スザクだと判断したのか、苦笑気味に笑みを浮かべ言葉を続けた。
「そうか...ランスロットにやられたんだったな」
「君っ、なんで!」
なんで、それを知っているのか。
なんで、ここにいるのか。
なんで。
なんで。
混乱した頭は、上手く言葉を紡いではくれなかった。
「スザク」
まるで自分を落ち着かせるように名前を呼ばれた、ような気がした。
「俺は、ゼロだ。だからここにいて、お前のことも知っていた」
「ゼロ...?ルルーシュ...が?」
嫌な予感が、当たった。
ルルーシュが、この機体から発見された時点で、そんな予感はしていた。
でも、どうしてそれを信じられる?
学校ではいつも一緒にいた。
家でだって、夜だって、一緒にいた時だってあった。
疑う予知なんて、なかった。
「そんな...なんで、ルルーシュが」
「『ブリタニアをぶっこわす』」
その言葉に、弾かれたようにルルーシュを見た。
「その言葉通りに、行動したまでさ」
彼が、自分の父親を恨んでいたことは知っていた、つもり...だった。
やはりそれが『つもり』であったことをいまさら突きつけられてしまった。
本当にはやらないだろう、と考えていたことも否めない。
「勝てると...思っていたんだがな」
そう儚く微笑むと、激しく咳き込んだ。
「ルルーシュ!もうしゃべっちゃだけだ、もうすぐ人が来るから、だからっ...!」
自分がその怪我を負わせたくせに、何を言っているんだろうと冷めた部分がそう呟く。
ルルーシュの服に、ぽたぽたと染みが出来始めた。
「泣くなよ、ばか」
そんな顔で怒られても怖くなんてなかった。
だが、そんな顔をさせているのが他ならぬ自分であることにまた涙があふれた。
だから...、と小さくルルーシュがため息をついた。
「いいか、スザク。俺はお前に負けたのでも、皇帝に負けたのでもない。
この展開を予想できなかった自分自身に負けたんだ」
だからお前は気にするな、と目を見ながら言われた、気がする。
涙で視界が滲んで、何もかもが歪んで見えた。
それが悔しくて、腕で涙を拭った。
やっとはっきり見えた彼の顔色は、もちろん良いとは言えなくて。
拭ったはずの涙が、再びあふれそうになった。
「...っ」
「ばか、だから...」
「平気で、いられるわけ、ない、だろうっ!?」
嗚咽交じりにそう叫ぶと、また彼が苦笑気味に微笑んだ。
止血用に、と苦し紛れに巻いたシャツも意味を成さなくなってきた。
「『王の力は、お前を孤独にする』」
「...?」
突如呟かれた言葉に、疑問の目を向ける。
「そう、言われた。だから、最期が独りじゃないなんて思っていなかった」
お前が、いてくれるなんて。
それが唯一の救いだ、と言わんばかりに。
「ありがとう、スザク」
「ばかっ!そんなこと、言うなよ...っ!」
握った手は、今までで一番冷たくて思わず口唇を噛みしめた。
「ゼロは、お前が仕留めた。これで、少しは、軍での地位が上がる...かもな」
その言葉に、昔、自分の戻る場所が軍だと言った際。
ルルーシュが機嫌をすごく悪くしたときのことを思い出した。
でも、本当は軍なんてどうでもよくて。
「君がいなきゃ、だめなんだよ...ルルーシュっ」
絞り出すように発せられた声は、本人に届かぬまま。
灰青色の空へ吸い込まれていった。
<END>
2008.04.12 修正
2006.12.21 作成
・後書きという名の反省文・
前に拍手に載せてたやつです。
まだ、ルルがスザクがランスロットのパイロットだって知らない頃です。
おそらく、11話のあたりに書いたものです。
なので、あとがきを書きなおしてます。
ちなみに、「ルルスザ 死ネタ」で検索かけて名歌に来てくださった方がいたので
そこから思いついた話だったりしました。
一期が終わって、こういう展開はなくなったわけですが
決着がどうつくかとても楽しみであります。