「あの時、君を庇って死ねるなら本望だと思ったんだ」
こんなこと、起きている君に言ったらどんな風に表情を変化させるかなんて想像するのはたやすい。
―― 一瞬目を見張って、そのあと眉をひそめてその紫紺の瞳に怒りの灯を持たせて細める。
そして、無言で抗議するんだ。
だから、寝ている時でもないとそんなことはしない。
負かされるのは、自分なような気がするから。
『今』でも勝てはしないと思う、きっと。
「それとね、生徒会のみんなを助けられるなら蜂の巣になってもいいとも思ったよ」
ぽつりぽつり、と誰に聞いてもらうためでもなくスザクは言葉を紡ぐ。
ルルーシュの瞳は今だ固く閉じたままで、開く気配すら全くない。
「誰かのために、いや...ルルーシュのために死ぬんだったら、喜んでこの命を差し出していたよ」
8年前に、自分のために力を奮うことは止めた。
誰かのために...ルルーシュとその最愛の妹を守るために使うことを決めた。
何年たっても彼らが守るべき対象であることは自分の中では変わらなかった。
彼らを弱いと思っているわけではなかった。
彼らには、これ以上汚い世界を見せたくないというただのエゴだったのかもしれない。
少なくともずっと、二人を守って死ぬのなら後悔はないと思っていた。
過去形で語られる言葉に、スザクはその太めの眉を寄せる。
視線を落とすと目に映るのは、真っ白な騎士服。
大きな代償を得て手に入れた地位の証である青いマントが揺れる。
んっ、と小さく身じろぐ声が聞こえ、もう一度ルルーシュに視線を投げた。
ブリタニアの拘束服に身を包み、自由を奪われ投げ出されるように横になっている姿が目に入る。
「今はね、ルルーシュ」
呼び掛けた主ではなく、自分自身に言い聞かせるように鉄格子を強く握る。
「この命、君を生かす為には存在しないんだよ」
存在しちゃ、いけないんだ。
その言葉にずるずると落ちそうになる身体を、両手に力を入れることで堪える。
懐かしいあの頃。
戻りたくないとは思わない。
それでも、振り返らずに進むと決めたのは紛れも無く自分たちだ。
だから、行くよ。
俺も、修羅の道を。
踵を返し、後ろを振り返ることなく進んで行く。
部屋を出るほんの一瞬に、スザクの唇が小さく動いた。
「さよなら、ルルーシュ」
だから、お願いだから。
僕の前に立たないで。
<END>
080910 掲載
080910 作成
「恋する貴方に15のお題(長文編)//
2.その人のためなら命をも捨てられると信じていた思い出が、いまは少し切ない。」