別に、困らせたいわけではないんだ。
「一騎」
いつも、同じような時刻に部屋に尋ねてきてくれる一騎に声を掛ける。
でもその声は、明らかに『怒』を含んでいて、不機嫌を表していて。
そんな声を、掛けたいわけじゃない。
「なんだ?」
その先に続く言葉を、もう想像がついているのだろう。
少し、ほんの少しだけ、表情が硬かった。
「今日の帰り、剣司と何を話していたんだ?」
自分が学級委員の仕事をこなしている間、一騎は剣司と話をしていた。
盗み聞きをしていたつもりは、なかった、が。
楽しそうな笑い声と、普通にしゃべる声に混じって、急に細くなる声。
それが内緒話、だと気がついたのは剣司の行動からだった。
耳元に顔を寄せ、手で口元を隠す行為。
話の中身も気になったが、それより何よりそれをし終わった後。
一騎が何とも言えない苦笑を浮かべていたのも気になった。
「別に...ただの世間話だって」
そう、答えるようになったのも最近で。
前は、もっと丁寧に中身まで話してくれたものだったのに。
それでもこう答えるときは、本当に些細なことなのだと分かるようにもなった。
だから、こういわれた時は素直に理解している、ふり、をすることにした。
...内心は、穏やかではない。
けれどもやはり、困らせたいわけではないから。
このやりとりをするたびに、微かにゆがむ君の表情が辛い。
どうして。
好きなのに、どうして傷つけてしまうのか
自問自答する日々。
<END>
2007.01.01 作成
2007.02.10 掲載
好き過ぎる7のお題//好きなのに、どうして傷つけてしまうのか