「わぁ...蛍だぁ」
カランコロン、と下駄の音が静かに響く。
「本当だ、綺麗だな」
夏祭りも終わり、みんなが家に帰ろうとしていた頃。
一騎と乙姫は総士に誘われて、森の中に入っていった。
何処に行くのか、と聞いても。
何をしに行くのか、と聞いても。
総士は振り返って笑みを浮かべるだけで。
すぐに顔を進行方向に向き直ってしまったのだった。
そんな総士に疑問に思うこともあったけれど、
その先にあるものが気になり大人しくついていったのだった。
しばらく行くと、少し開けた場所についた。
「ここだ」
総士の声で顔を前に向けると。
「...っ!」
思わず息を飲んだ。
「...綺麗」
蛍がその開けた空間に溢れ。
上を見るとまるで星が手の届くところまで降りてきたかのように見える。
三人がしばらくその場から動くことはなかった。
「喜んでもらえたようだな」
「あぁ、すごいよかった!」
「すっごい綺麗だったよ、総士!」
帰り道、またカランコロンと軽やかな音が会話の後ろに静かに響く。
「また、来たいな」
一騎が小さく呟いた言葉に、総士は嬉しそうに微笑んだ。
<END>
2007.04.09 作成
2007.04.28 掲載
「夏色課題//蛍」